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  恋の呪縛―佐紀と桃子― 

恋の呪縛 2006/08/05 |このエントリーを含むはてなブックマーク 
『恋の呪縛』シリーズのラストを飾る「おねえさんず」ものです。シリーズ中最長。

2004年11月9日掲載。

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ライバル…互いに相手の力量を認め合った競争相手。好敵手
(三省堂提供「大辞林 第二版」より)

そんな相手がいるのは果たしていいことなのかそうでないことなのかわからないけど、少なくともあたしの場合には確実にそれがいた。
何かにつけてあたしに対抗してくる相手、常にお互いを意識しないではいられない相手、
あたしにとってそれは同じクラスの嗣永桃子ちゃんだった。
桃子ちゃんとあたしは全然タイプが違う。例えて言うなら水と油。
あたしは―自分で言うのもなんだけど―ちゃんと毎日予習復習勉強して
クラスの班での作業の時にはみんなの意見を聞いて、委員長を務める学級会でもきちんと計画して議事を運ぶ。
対して桃子ちゃんは勉強は―言っちゃなんだけど―からっきしだし、
班活動でも自分の意見を強引に―しかもなぜかみんなを言い包めちゃって―通しちゃうし、学級会では突然発言して、あたしの議事を台無しにしちゃう。
(しかもその発言が的外れならまだしも、必ずどこか的を射ている)

そして最も大きな違いは…恋愛関係、これだった。

あたしはそういうことには生まれてこの方縁がないのに対して、桃子ちゃんはすでに両手では数え切れないくらいの男の子と付き合ってきたらしい。
しかもそれは同級生だけじゃなくて、上級生、他の学校の人、さらには家庭教師の先生とか…数えあげればキリがない。
何でそんなに人気なのか。それは桃子ちゃんを一日でも見ていればわかる。
ほら、今もまた隣の男子と…授業中なのに…

「あ、嗣永さん、消しゴム落ちたよ」
「あ、ホントだぁ。ありがとぅ~」
「い、いや…大したことじゃないって、へへ」
「ん~ん、ありがとね」
「こらそこ!私語をしない!」
「はぁ~い。怒られちゃったね」
「そ、そうだね…へへへ」

そう、桃子ちゃんは―ちょっと古い言い方だけど―いわゆる「ぶりっ子」なのだ。
でも男の子たちにはあれがたまんないんだろうなー。あたしにはとうてい真似できない。
普通はそれだと女の子には嫌われそうなものだけど、人ってのはあまりにやりきってしまうと「それはそーいうものなのね」と納得されちゃうものらしい。

「桃子今日もかわいいね~」
「ありがと~桃子スマイル~&桃子スタイル~」
「なぁに、また新しいの考えたの?」「ねぇ教えて教えて~」
「うん!えーとね…」

なんていう女子たちとのやり取りは日常茶飯事だ。でもまぁ桃子ちゃんはファッションセンスもいいらしいし、男の子にも人気があるわけで、女子にとっても憧れの存在ではあった。
まぁあたしはあえて話そうとはしなかったけど。

そんな中である日の家庭科の時間、ついにあたしたちの対立は頂点に達した。
偶然にも同じ班になったあたしたち。班ごとの作業の時間に「その瞬間」は訪れた。
ホットケーキを作ろうという授業、先生の「それでは班ごとに作業はじめ!」を合図にいきなり勝手に作業を始める桃子ちゃん。
あたしは当然、見過ごせない。

「桃子ちゃん!みんなで協力しないとダメだよ!」
「何よ!リーダーはあたしでしょ!」
「そんなのいつ決めたのよ!」
「うるさいわね~!いいじゃんホットケーキできれば!」
「よくないよ!だいたい作り方間違ってるじゃん!」
「え!な、何言ってるのよ!間違っちゃいないわよ!」
「何バカなこと言ってんの!卵はそのまま、油も引かずに何焼こうとしてるのよ!」
「う、うるさ~い!いいの!あたし流なの!」
「いいからちょっと貸して!もう!」

全力でぶつかりあうあたしと桃子ちゃん。周りは固唾を呑んで見守っている。
でもそのうち冷静になってみると、お菓子の作り方一つでこんなに必死になっていたお互いがおかしくなって…

「ぷっ…くくくくく…」
「あ、あは、あははははは!」

あたしたちは笑った。お腹を抱えて、笑い泣きまでして。こんなに笑ったのは生まれてはじめてじゃないかというぐらいに。

その日以来あたしたちは普段から話をするようになった。
桃子ちゃんに意外な弱点があることがわかって親しみがわいたし、それにお互い対抗してたってことはイコールお互いに関心があったわけで、
いったん打ち解け始めたらその後仲良くなるのはすごく早かった。

あたしたちはそれから今までの分を取り戻すように、毎日いろんなことを語った。
お互い相手にあるのは自分には持ってないものばっかりだったから、それはそれは新鮮だった。

そんなある日、あたしたちの話はついに恋愛トークになった。桃子ちゃんの口からはいろんな体験談がどんどん出てくる。こればかりはあたしにはネタがない。
と言っても、実は最近はないこともないんだけど…

それを見透かされたのだろうか?桃子ちゃんが不意に

「佐紀ちゃん好きな人いるんだ?」
「え!?」
「だって"いいなぁ"って顔してるもん。"あたしもそんな風になりないなぁ"って顔♪」
「え、えっと…」
「ねぇ誰?誰?」
「い、いや、そんな言うようなものでも。それにホントに好きなのかどうか自分でもわかんないし」

しばらくそんなやりとりをしていたあたしたち。でもあたしはとても恥ずかしくて好きな人とか言えない。
最初はしつこく聞いてきた桃子ちゃんもあたしのそういう性格をわかってくれたらしく

「そっかぁ。まぁ上手くいったら教えてね。お祝いしよ!あたしもがんばるね!」

そう言ってくれた。

でも思えばこの時、好きな人の名前を明かしておくべきだったのかもしれない

数日後の放課後、クラスで盛り上がる桃子ちゃんたち。
仲良くなって以来あたしはあの中に入ることもしばしばになったけれど、この日は学級日誌を自分の机でつけていた。
今日の授業を書いて、感想を書いて…いつもと変わらぬ仕事、そのはずだった。
桃子ちゃんの声で、あたしの今いちばん気になるあの人の名前を聞くまでは。

「あたし、明日彼に告白する!」
「えぇ~大胆!」「でも桃子ならいけるよ~がんばれ~」
「ありがと~がんばるね!」

耳を疑った。何がなんだかわからなかった。我に返って愕然とした。
だって桃子ちゃんとは絶対好みが違うと思ってたから。同じ人を好きになるなんてありえないと思っていたから…。
そんな私の思いを知るわけもなく、桃子ちゃんがこちらにやってくる。

「佐紀ちゃん帰ろ!」
「い、いや、あたしはまだ日誌書かなきゃならないし…先に帰ってていいよ」
「そぉ…?わかったまた明日ね!」

みんなが帰った教室で、あたしは泣いた。机に伏せて、しゃくりあげて。
初めてできた心の底から語り合える友達、親友と言っていい友達。その子と恋敵になるなんて…。
頭の中をいろんなことが廻る。桃子ちゃんと対立してた頃のこと、あの家庭科の授業のこと、それから話したいろんなこと…その一方で好きになったあの人のことも。
あたしは泣きながら考えた。考えて「彼には桃子ちゃんがふさわしい。自分は身を引こう」そう結論を出した。
そして自分をいじめるようにそれを何度も何度も頭の中で反芻した。涙がまた溢れた。

そうして一時間もしただろうか。やっと落ち着いたあたしは、日誌を職員室に届けて帰ろうと席を立った。
すると…

「…清水さん?まだ帰ってなかったんだ」

教室の入り口に男の子がひとり。そこにいたのは…そこにいたのは…!
何でこんなときに…やめて!もうこれ以上あたしを苦しめないで!

「…何?」

動揺を隠そうと、あたしは「彼」に短く聞き返す。
でもそれがまずかった。話したくないならそこですぐに立ち去ればよかったのだ。
なのに。あたしは話してしまった。未練たらしく。

「どうしたの?泣いてたみたいだけど」
「い、いや、なんでもないの!」

会話は終わった。早くここを去らないと…なのになぜか足が動かない。
あたしは何を期待してるの?何も期待するようなことはないはず。なのに…自分で自分がイヤになる。

「清水さん…」

彼があたしの手を取る。え?え?

「僕は…清水さんを泣かせたりしない!僕が清水さんを守る!」
「え?それってどういう…?」

あたしの頭はもはやパニックだった。思いもかけない展開にびっくりしたってのもあるけど、桃子ちゃんに申し訳ない気持ちもあるけど、
やっぱり心のどこかで彼のことをまだ好きだったんだ…自分は諦めが悪いなぁ、と改めて思う。
そんなあたしの逡巡をよそに、彼は続けた。

「清水さん!好きです!僕と…付き合ってください!」
「あ、あたしと?桃子ちゃんじゃなくて?」
「え?なんで嗣永さんが…?」
「だって…桃子ちゃんはあたしなんかよりずっとかわいいし…」
「嗣永さんはかわいいけど…でも僕は清水さんが好きなんだ!」
「そ、そんな…」

考えてみれば、あたしは今初めて桃子ちゃんに恋愛で勝ったわけだ。
昔だったら間違いなく彼の告白を受け入れるだろう。
あてつけ…というわけではないが、それはそれは得意げになっていただろう。
でも今のあたしと桃子ちゃんは、友達、いや親友と言ってもいい関係。彼のことは好きだけど…でもでも、友情も手放すなんてできない!
どうしたら…どうしたらいいの…?

…桃子ちゃん…


告白なんてしないでよ
付き合い方も知らないくせ
どうやって私守るのよ
根拠も何も無いくせに

大人ぶるのやめて
真面目顔もやめて
女友達が君の事
好きだと知ってるのよ私

教室には何もないわ そんな強く迫らないで
女同士友情って こんなことではかなく砕けるの
恋の呪縛

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